書くこと、創作が一番好き。デザイン書道作家 鈴木愛さん<東三河のキラリ人>

書くこと、創作が一番好き。デザイン書道作家 鈴木愛さん

  • 芸術文化部門

書道の道具を使い、頭の中のイメージや心に思っていることを文字の形を借りて表現するデザイン書道。2003年からデザイン書道作家として活動を始め、これまで1,200点を超える作品を世に送り出してきた鈴木さん。商業的なロゴのデザインを始め、アート作品や、イベントなどでのパフォーマンスの他、デザイン書道の教室も行っています。「豊橋カレーうどん」のロゴデザインを始め、茶臼山高原の「芝桜の丘」や「とうえい温泉」など東三河地域で目にする機会のある作品も多く制作。豊橋市在住。

書道を始めたきっかけを教えてください。

 書道をはじめたきっかけは、小学校1年生の時、両親に近くの書道教室に連れて行かれたことです。大きな字を書くのが特に好きで、書道教室に頻繁に通って、時間を忘れて書いていました。父親が転勤族ということもありまして、その後は中断する期間も長くありましたが、高校生のとき、芸術選択で書道を選びました。古典の臨書※1・かな・篆刻※2、何でも一通りやらせてもらったんですけど、その中で書道の楽しさを思い出していました。

高校三年生になって、そろそろ進路を決め出すときに、書道担当の先生が私のことを呼び出して「あなたは書道科のある大学に行ったほうがいいんじゃない」って言ってくれたんです。でも私は自分が小さい頃から、いつか幼稚園の先生になりたいなぁと思っていたので大学は女子大の家政学部があるところと決めてたんです。それで書道担当の先生には「私には夢があるから、そっちには行きません」と言ってお断りしたんですね。

そのまま幼稚園の先生を目指して進学するんですけど、教育実習で挫折し、就職活動をせずに卒業することになったんです。目標がなくなってしまって、何か生きがいを見つけたかったんですね。仕事のことは全く考えてなくて、ただ日々の充実のために、好きなことをやりたいと考えていました。そのとき高校時代の書道の先生の言葉が蘇ってきたんです。

当時住んでいた家の近所にあったカルチャースクールのチラシを見ていたら、書道の欄に「商業書道」という講座がありまして、チラシにはその先生が書いた文字がありました。その小さい文字でもびっくりするぐらい独創的というか、見たことないような書体が書かれていて、そこで初めて「商業書道」という、人に求められて、お仕事として人に字を書く世界があることを知りました。

それまで書道って自己満足の世界ってイメージがあったんですよ。自分で作って、自分で「よくできた」というのと、型通りお手本を書いて教える世界しかない、と思っていたので、あんまり魅力を感じていませんでした。でも、自分で作品を生み出すということが人に求められる世界があるんだと分かって、普通の書道を始めるつもりが結果的には商業書道の教室に入る事を決めました。教室で習っていたときは、好きなことを見つけることができて、ただ楽しかったという感じですね。

※1 法帖(手本)を見ながら書を書くこと。また、その字形や筆使い,字配りや全体の気分をまねて練習すること。
※2 印章を彫ること。

商業書道を習ったあと、どういう経緯で書道をお仕事にされるようになったんですか。

 2003年2月から仕事として始めました。教室に通い始めて、1年経った頃、先生に「もう一人でやっていけるから、やってみたら」と言っていただいたんですが、私が「いやいや出来ません。」と言っていると先生が、私が書きためていたものの中から、いくつか選んで、私の作品を紹介するパンフレットを作ってくださいました。先生はデザイナーでもあるので、パンフレットを作っていただくのであれば、当然お金を支払わなくてはいけないのですが、先生は私にそれを求めず、「がんばれ」という感じで無償で作ってくださいました。

私は、お仕事をして世の中に自分の作品を発表するということが、先生に対する恩返しと思いました。だから、私は動けたんだなと思います。私の性格上、売り込みって苦手なんです。営業活動と言えるものはその一ヶ月しかしていません。

電話帳で日本酒の製造会社と和菓子屋、広告代理店を調べて、先生に作っていただいたパンフレットに「何年後かにコンペがあれば参加させていただけませんか」というお手紙を添えて送りました。今思えば、非常識なことをしてしまいました。

そんな中、奥三河にある関谷醸造さんに「パンフレットを送ったものです」と電話したところ、「うちに新店舗を建設する計画があるんですが、鈴木さんのパンフレットを拝見して、店舗のロゴをあなたに書いてもらいたいと思っていたところでした」と言っていただいて、最初の仕事が決まりました。

また、アート作品を始めるきっかけも関谷醸造さんでした。もともと自分にはそういう才能はないと思っていたので、アート作品を作るという気が全然なかったんです。仕事を依頼された関谷醸造さんの新店舗にはギャラリーがありまして、関谷さんから「オープニングイベントでギャラリーに作品を展示するから作品持ってきて」と言われて、私必死で作品を作ったんですよ。それがきっかけでアート作品も作るようになって、商業作品とアート作品という二本柱でお仕事をさせていただくようになりました。

関谷醸造さんのオープニングイベントには多くのお客さんが訪れていました。みなさんお酒を買いに来られるんですけど、ついでにギャラリーを見てくださるんですよ。そのときに見ていただいた方が「こういうことをやる人がいるんだね」って、知ってくださって、それを機にお仕事をくださった方が多かったんです。

このとき、ようやく好きなことを仕事に出来たと実感しました。

数多くの作品を発表されていますが、思い入れのある作品はありますか。

 地元東三河ということで言えば、やはり「豊橋カレーうどん」のロゴですね。非常にありがたいお仕事でした。いまでも「カレーうどんを書いた鈴木さん」と言われることがありますから。地元の方に知っていただくきっかけになったものかなと思っています。あと昨年の「豊橋市民愛市憲章」も印象的なお仕事でしたね。

それからお寺のお仕事ですね。「南無阿弥陀仏」と書いた襖のアート作品です。これも個展を見に来ていただいたのがきっかけでご依頼をいただいたものです。まさか自分がお寺の襖作品を書けるとは本当に想像していなかったので、すごくうれしかったですね。ありがたいなと思いました。これをきっかけにその方面の仕事もちらほらいただくようになりました。今もあるお寺のロゴを書いています。

お仕事に使われる筆は地元で作られる豊橋筆を使っていらっしゃるそうですね。

 この土地にいるからこそ手に出来る道具がある、というのは本当に恵まれているなと思います。パフォーマンスで使う筆はすべて特注で職人さんに作ってもらっています。仕事に使う筆はすべて豊橋筆で、お店で買うもの以外は職人さんにお願いして特注で作ってもらっています。

この豊橋に住んでいるからこそ、豊橋筆の質の良さを知ることが出来たし、豊橋筆でなければ、私のこだわった線質が出来ないということも分かっているので、この筆がなくなったら仕事が出来ないぐらい、今は頼っている道具ですね。

これだけ質のいい豊橋筆なので、同業者に薦めているんですよ。私の同業者がいろんな土地から豊橋筆を買ってくれているので、豊橋筆がもっと広まったらいいなって思います。

商業的なロゴからアート作品まで幅広い作品を作られていますが、作品のインスピレーションはどこからくるんですか。

 それは様々なタイミングで来るんですけど、書いている中でどんどんイメージが広がって変化してくることがよくあります。仕事を抱えていると常にいろんなアイディアを日常生活の中で探している状態になっています。あるときは寝る直前に思いつくこともありました。

私、ジョギングをするんですけど、この土地に来て素敵だなと思うのが、空が広いことなんですよ。空の表情が毎日変わって、雲の模様とかを見ているといろいろイメージできることがあるんです。それをヒントに作品を作ったこともあります。いろんな要素でひらめきますね。

それから旅行もすごく好きで年に何回か行くんですけど、美しい景色とか、自分が感動することとか、自分が作品を作りたいと思うきっかけになることがたくさんあります。

ジョギングの話が出ましたが、マラソンもやってらっしゃるんですよね?ホノルルマラソンを完走したとブログで拝見しました。本格的にやってらっしゃるんですね。

 全然本格的じゃないですよ(笑)。ホノルルマラソン完走っていうと、みなさん「すごいすごい」って言ってくださるんですけど、ホノルルマラソンは制限時間がない大会なので、初心者にはもってこいの大会なんですよ。フルマラソン走る人って毎日走ると思うんですけど、私毎日は走ってないですからね(苦笑)。

職業柄、体を動かさないので、調子悪くなってきたな、と思うと「あ、走らなきゃいけないな」って思いますね。自分に厳しく出来ないので、「しょうがない、そろそろやるか」みたいな感じで走ります。体の調整をするっていう感じです。

これまでの創作活動の中でどのような苦労がありましたか。

 苦労ですか?私、苦労したこととか、どんどん忘れていっちゃうんですよ。苦労をあまり苦労と思わずに、試行錯誤してる、って感じですかね(笑)。12年間、仕事として書道をやってきて、悩みや苦労みたいなものも、ちゃんといい順番で来るということが分かってきたんです。

「あぁ、なんてことやっちゃったんだろう」とか思うことでも、何年後かに「あのとき、あの経験をしたから、今この仕事が出来る」って思えたことがいろいろあって、生きている中で降りかかる苦労とか悩みとか、今ここでクリアしておかなきゃ、この先何年後かに乗り越えることができないようなことがあるんだろうな、って考えるようになりました。

今、私は書くこと、創作することが一番好きで、基本的にいつも楽しく書かせていただいています。試行錯誤しているときは分からなくても、そこから自分がポッと抜け出して客観的になってみると、好きなことで悩むことが出来るのは非常に幸せなことだなと思います。

今後はどのように活動されたいですか。

 地元を拠点にして、活動の幅を広げたいと思っています。地元を中心にいろんな土地に行って作品を発表したいですね。ゆくゆくはニューヨーク、パリなどで個展を開きたいです。国内外を問わず作品を出していけるようになりたいですね。

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インタビューはご自宅兼アトリエである古民家の一室で伺いました。築百年を越える建物の中に入らせていただくと、どこか懐かしい雰囲気で、ゆるやかに時間が流れているように感じました。
鈴木さんは書道家というだけあって立ち居振る舞いがきれいで、とても緊張しました。
言葉を選んで、ゆっくりとお話をされる鈴木さん。淡々と静かな語り口。
作品の中のこだわりについてお伺いすると「線の美しさ」とお答えになりました。ずっと自分の気持ちに素直に従ってきたその生き方が作品にも表現されているのかもしれません。

2014年1月27日 取材

 鈴木さんの次回の個展が2014年4月12日から5月11日まで豊橋市向山町のアートエイジギャラリーで開催されます。足を運んでみてはいかがでしょうか。

〔鈴木愛さん 個展スケジュール〕
○2014年4月12日~5月11日
豊橋市 アートエイジギャラリー

○2014年9月17日~9月23日
豊橋市 應通寺「8面の襖作品の公開&個展」

○2015年1月3日~1月18日
豊橋市 こども未来館ここにこ

鈴木愛さんホームページ
http://www.suzukiai.com/

ブログ「デザイン書道家 鈴木愛 筆と墨の日々」
http://aisuzuki.dosugoi.net/

 

※記載されている内容・写真は、調査当時のものですので、最新の情報とは異なる可能性があります。
必ず事前にご確認の上おでかけください。

(転載/穂っとネット東三河

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